出口の扉をこじ開ける準備はあるか

放浪生活を初めて変わったことは、「私はどのような状況下でも生きていける」と言う確固たる自信がついたことと、「私は世界中どこにでも行きたいところへ行ける」と言うことを身体で理解したことだ。
阪本明日香 2024.03.21
誰でも

ガラパゴス諸島で停電中。私はいま、真っ暗闇の中でこれを書いている。

パソコンは充電しながらでないと作動しないボロなため、仕方なくiPadで打っているけどiPhoneのライトだけを頼りに慣れないキーボードをたたくのは思った以上に大変だ。

今日はこれで二度目の停電。ついでに水道も出ないので皿洗いもできない。普段は滅多に停電までしないけれど、水道はよく止まる。だからこういう状況になってもさほど驚かなし、困らない。ここに来てからネットのない状況で生きることにもだいぶ慣れたので、ストレスもあまりない。

仕事で使用する時以外はSNSもほとんど見なくなった。代わりにダウンロードした本を読み、音楽を聴き、よく眠るようになった。夜の10時にはベッドに入り、1時には就寝。朝7時には起きる。午前中仕事をしたら、2〜3時間は昼寝をする。

スマホ依存のようにネットがないと生きていけないような人たちには、この生活は到底できない。

海外での放浪生活を初めて、1年以上が経った。

最初はフィリピンのセブ島、次にロンドンとドイツのヴィースバーデンへ行って、メキシコのプラヤ・デル・カルメン。そして南米のエクアドルの首都キトに行き、いまはガラパゴス諸島にいる。来月はコロンビアに行く予定だ。

まだ電気も通っていないような村や、紛争地帯で生活したことがないから考えが甘いかもしれないが、放浪生活をはじめて変わったことは、「私はどのような状況下でも生きていける」と言う確固たる自信がついたことと、「私は世界中どこにでも行きたいところへ行ける」と言うことを身体で理解したことだ。

この2つがあれば、人の持つ悩みのほとんどは消えてなくなる。自分の生きたい環境を選べる。嫌いな上司と働く必要もない。女性差別の強い社会で暮らす必要もない。生きる意味や孤独などに悩まされることもなくなる。死にたくなくても殺される場所など世界中にはいくらでもあるので、自分でわざわざ死にたいとも思わない。

死にたいと思う気概があるなら、捨て身で旅をすればいい。それができれば一石二鳥、いや三鳥以上なのに、今は昔と比べて放浪する人がほとんどいなくなった。


それが悩みの種であり、日本人が病んでいる原因だと私は思う。

自分のテリトリーから出られない。保証や保険をかけないと安心できない。事前に情報がないと不安で仕方がない。目的や理由がないと動けない。

自分自ら動き、目で見て、肌で感じて、情報を得ることができない。

自分の生きる力を信じることができないのだ。

最近出版された熊代亨先生の『人間はどこまで家畜か』という著書で、今の人間を「動物園の動物」に例えられていた。檻の中で飼い慣らされ、寿命だけが伸びて毎日退屈そうにしている。まさに今の日本人そのままだ。

動物園の動物よりも人間が愚かなのは、檻の扉の鍵はつねに開いているのにも関わらず、まるで悲劇の主人公のように不自由だと声高らかに嘆いていることだ。

檻の外で生きる方法なんていくらでもある。お金を稼ぎ、食事を得て、寝床を確保する方法なんて世界にはいくらでもある。だけどそれは自ら扉を開けなくては誰も教えてくれない。檻の中にいてくれた方が動物園は儲かるのだから当たり前だ。

すでに外にいる人間も、檻の中にいる人になにを教えたって意味がないことを知っている。いくら有益な情報を与えたって、自分で道を切り開く覚悟のない人には無意味な情報でしかないからだ。そんな無駄骨は誰もおってくれない。

私は10代の頃からずっと出口を探して生きてきた。
鍵は開いているのに出口が見つからなかったのは、テリトリーの外へ出て、肌で感じ、自分の目で見なくては、檻の外で自由に生きる術なんて絶対に見つからないようになっているからだ。扉は閉ざされているように見えた。


あなたがもし自分も檻の中かもしれないと思うのであれば、日本がこれほど便利であることが、どれだけ人間の生きる力を奪っているのか少し想像をして生きた方がいい。

まず、コンビニがないのは困る、治安が悪いのは嫌だ、トイレが汚いのは嫌だ、ご飯がまずいのは嫌だ、などと思っている時点でその人が檻から出ることはない。それは飼い慣らされた動物園の動物。便利の奴隷だ。

そして、ネットで流れてくる世界の危険なニュースによって、海外や外国人に対してどれだけ恐怖を植え付けられているのかも。

あなたの見ている現実は、誰かによってコントロールされ用意された小さな檻の中の世界なのかもしれないと、少し想像してみるといい。


あなたは世界中のどこへでも行ける。



そんな私もまだ「檻の外にある檻の中」にいるのかもしれない。

だけど出口を見つけたら、扉をこじ開ける準備はいつでもある。



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