あなたはまだ人間か?

もっとも進化した場所は日本でも欧米でもなく、生物が生物らしく、人間が人間らしく生きられるこの島なのではないかと思わざる得ない。
阪本明日香 2024.03.10
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いま私はガラパゴス諸島にいる。
ここは本土から1000km離れた赤道直下にあり、ダーウィンの進化論がこの島で生まれた。独自の生態系やここにしかいない動物が多数いて、生物学者や旅人にとっては憧れの島だ。

ここにきてからと言うものの、起床するのがかなり早くなった。以前いた首都キトと違って、真夏のように暑くカラッとしていて過ごしやすいため寝付きがいいのもあるが、この宿にチェックインした初日からオーナーが飼っている猫たちに好かれて朝早く起こされるのもある。犬や鳥の鳴き声が外からすべて聴こえてくるので、それで目が覚めることも多い。さすがガラパゴスという感じ。


今はホテルの部屋にいるけれど、珍しく雨が降っていてなかなかやまない。ほぼ快晴で日差しの強い日が続いたので、まさに「恵みの雨」と言う感じだ。天井は鉄板のようなものでできているので雨の音が響いて聞こえてくる。
強くなると建物が壊れるのではないかと思うほどの大音量で、アニメを観ていたのにまったく音が聞こえないからこれを書きはじめた。


よく水道は止まるし、ガスも止まる。入島した初日には街全体が停電した。
ヨーロッパや日本の建築と比べると雑な作りでどこか心許なく、地震が起こればひとたまりもなさそうだ。まるで数十年前の時代に戻ったような感覚になる。だけど雨漏りはまったくしないので、見た目以上にしっかり設計されているのだなぁと感心した。


「ガラパゴス」という言葉は日本ではよくネガティブな印象で使われる。ガラケーもガラパゴス化した携帯という意味だし、外界から隔絶された環境下で独自の発展を遂げ、その結果として世界標準の流れからかけ離れていく状態を揶揄する表現でもある。

だけどそれは誤解で誤用だ。ガラパゴスは実は世界の中でも新しい島で、世界から遅れているのではなくもっとも進化した場所だとも言える。


例えば、ここに生息する動物たちは人間をまったく恐れない。
アシカはそのへんのベンチで眠っているし、ペリカンは魚市場でおこぼれをもらおうと、子供のように人間にピッタリくっついている。イグアナはどれだけカメラを近づけてもまったく逃げようとしない。中には自ら人間に近づいてくる動物もいて、海で遭遇したアシカは一緒に遊ぼうとじゃれてくるそうだ。


恐れも競争心も闘争心もない。

なぜそうなったのかはダーウィンにも解明ができなかったみたいだが、日本の生物学者の福岡伸一は「ヒエラルキーがないため競争する必要がなく、本来生物が持っている好奇心が芽生えた」というような見解を示していた。

戦う必要も、競い合う必要もなくなった生物は本来持っている「好奇心」が優位になるのだと。



これを受けて私は、もっとも進化した場所は日本でも欧米でもなく、生物が生物らしく、人間が人間らしく生きられるこの島なのではないかと思わざる得なかった。


人種や信仰宗教、階層や階級に人間を分け、弱者を支配したがったり、マイノリティーを差別したり、侵略したがったり、戦争したり。地位を競ったり、マウントしたり、他人と争ったりしている私たちの社会はとても原始的で、ガラパゴスにいる動物たちよりもはるかに動物的ではないだろうか。

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